東京地方裁判所 平成6年(ワ)24055号 判決 1997年2月21日
主文
一 被告は、別紙物件目録(二)記載の商品を輸入し、譲渡し、引き渡してはならない。
二 被告は、原告に対し、金一四〇〇万七四〇一円及びこれに対する平成六年一二月一日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用はこれを一〇分し、その九を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
五 この判決の第一項及び第二項は仮に執行することができる。
理由
【事実及び理由】
第一 請求
一 主文第一項に同じ。
二 被告は、原告に対し、金一五〇〇万七四〇一円及びこれに対する平成六年一二月一日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、原告が、被告に対し、被告が輸入し国内で販売する別紙物件目録(二)記載の幼児用乗用玩具(以下「被告商品」)は、原告が製造販売し、その形態が原告の商品であることを表示するものとして広く知られている別紙物件目録(一)記載の幼児用乗用玩具(以下「原告商品」)と形態が類似し、原告商品と混同を生じており、被告の右行為は不正競争防止法二条一項一号に該当する不正競争行為であるとして、同法三条に基づき右行為の差止め及び同法四条、五条一項に基づき損害の賠償を求めた事案である。
一 争いのない事実等
1 原告と被告は、ともに玩具の製造販売を業とする株式会社である。
2 原告は、昭和六〇年八月から今日に至るまで、シャベルカーを模したプラスチック製幼児用乗用玩具である原告商品を「わんぱくシャベル」との商品名で製造販売しており、その形態は別紙物件目録(一)記載のとおりである(製造販売を開始した時期については、甲一、甲四の1、甲五の1、甲一〇の2・3。現在も製造販売していることにつき、甲三五ないし三八)。
3(一) 被告商品も、シャベルカーを模したプラスチック製幼児用乗用玩具であって、その形態は別紙物件目録(二)記載のとおりである。
(二) 被告は、平成六年一〇月から一一月にかけて、韓国内で製造させた被告商品(商品名「キッズシャベル」)を一二回に分けて合計九三〇〇個輸入し、卸問屋の株式会社サンユーに対して七九〇八個(単価二八五〇円)を、株式会社サンクスに対して一三九二個(うち六九六個については単価二八九八円、残り六九六個については単価二九〇〇円)をそれぞれ販売し、被告商品は日本国内の小売店で販売された。
被告の売上高は合計二六五七万三二〇八円となる。
二 争点
1 原告商品の形態は、原告の商品を表示するものとして取引者及び需要者の間に広く認識されているか。
2 被告商品は原告商品と類似し、原告商品と混同を生じさせているか。
3 被告に故意又は過失が認められるか。
4 損害額
三 争点に関する当事者の主張
1 争点1(原告商品形態の周知商品表示性)について
(原告の主張)
(一) 原告商品の形態の特徴
原告商品は、全体の大きさ、デザイン及び色彩に加えて以下のような形態的特徴を備えており、これらの特徴は他に類を見なかったもので、一見して原告の商品であることを識別できるものとなっている。
(1) アーム部分
幼児は、アーム部分の二つのレバーを交互に押したり引いたりすることにより、乗ったままでアーム先端のシャベルを前後・上下に動かすことができ、本物のシャベルカーのように砂を掻き上げる真似ができる。
このようなシステムは、原告商品が発売される以前にはなく、原告が独自に開発して原告商品に採用したものである。
(2) ハンドル部分
ハンドルの形状は航空機の操縦桿に似せた方形であり、可動するアーム部分との間で幼児が手を挟まないよう、方形の一辺の中点を軸に固定してある。
(3) タイヤ部分
幼児でも容易に方向を変えることができるなど操作性を上げるとともに、車輪部で幼児が足を挟まないようにするため独立の車輪を採用し(実際のシャベルカーのほとんどはキャタピラーであるが、そうすると幼児の動きがかなり不自由となる)、デザイン上の観点から車輪の数は六輪としてある。乗用玩具としてのトラックに六輪を採用しているのは、原告と原告の下請製造会社の二社以外にはない。
(二) 商品表示としての周知性
以下のとおり、原告商品の右形態は、商品表示として玩具業界及び一般消費者の間で周知となった。
(1) 原告は、原告商品の発売以来今日まで、これを全国の問屋を通じ全ての都道府県の小売店で年間約五万個を販売してきており、その累計は八年間で合計四五万四一六〇個に及ぶ。
販売先の問屋数は現在八二社、その店舗数は一四九店舗である。
(2) 原告は、ほとんどの卸売業者や小売業者が購読する業界誌トイジャーナルに、原告商品の写真も掲載した二ページにわたる広告を毎年四回ないし五回出している。
(3) 原告は、日本全国のほとんどの玩具メーカーや輸入元が出品し業者や一般消費者が多数訪れる国際見本市に、原告商品を発売以来毎年出品している。
また、原告は、地方の問屋組合の主催による各地方の見本市にも原告商品を発売以来出品し続けている。
(4) 原告は、原告商品の写真が主力商品として掲載されているカタログを毎年約三五〇〇通作成し、全国の卸問屋や小売店に配布している。
また、全国の小売店も、年末年始、コールデンウィーク、夏休み等の大売り出し用に新聞等の折り込み広告をそれぞれ何千枚も各家庭に配布しているが、そのほとんどの広告にも原告商品の写真が掲載されている。
(被告の主張)
(一) 原告が原告商品の形態的特徴であると主張する点は、いずれもありふれた形態であって、この点に商品表示性を認めることはできない。
(1) レバーでアーム操作を行うことは、他のパワーシャベル玩具でも見受けられる(なお、右玩具は小型玩具のためレバーは一つであるが、レバー操作の構造はほとんど原告商品と同じであり、乗用玩具化すれば二つのレバーとなろう。)。また、被告が平成二年八月ころから製造販売している「怪力シャベル」のアーム操作は原告商品と全く同一であるが、原告からクレームを受けたことはない。
(2) ハンドルの形状についても、方形のハンドルを採用している他社製品は幾つもあり、「怪力シャベル」も同様であって、原告商品の特徴ではない。また、ハンドルの方形の一辺の中点を軸に固定してあるとの点も、幼児用玩具であれば手を挟まないように工夫するのは当然である。
(3) 車輪を採用しているのは、前記乙四のパワーシャベル玩具も「怪力シャベル」も同様である。そもそも、幼児用の乗物であるから、機能的に車輪とならざるを得ないし、実物の重量運搬車両の多くは六輪であって、「六輪」とした点も何ら目新しいものではない。
(二) そもそも幼児用玩具では、幼児が楽しく安全に遊ぶことができるか否かに商品価値の重点が置かれ、これらの点に着目して取引が行われるのであるから、商品の意匠的側面(形態)は二の次である。原告商品は、形態によって出所表示機能を獲得できるようなものではない。
(三) 商品形態の周知性は、当該商品のどのような特徴をどのような宣伝方法で強調するかにかかっているのであり、ありふれた宣伝をしたり見本市に商品を漫然と出品したからといって、商品形態の周知性が生じるというものではない。
原告は、年一回分の業界誌の広告しか書証として提出しておらず、その広告内容も、原告の多数の商品に混じって原告商品が宣伝されているだけであり、原告が主張する形態的特徴を特に強調しているわけではない。新聞の折り込み広告にしても同様であり、他社の商品の中に原告商品が小さく掲載されているだけで原告名すら表示されていない。また、原告は、原告商品について消費者に対し直接宣伝活動を行っておらず、この点からも原告商品がありふれた普通の商品であり、特段特色をもつ商品でないことを端的に物語っている。
2 争点2(被告商品の類似及び混同のおそれ)について
(原告の主張)
(一) 被告商品の形態と原告商品との対比
被告商品は、その大きさが原告商品と全く同一で、外観・色彩が酷似するばかりでなく、キャタピラーではなく六輪の車輪としたこと(車輪の直径も同一である)、シャベルのアームの形、ハンドルの形及びそれらの諸機能もほとんど原告商品と同一であって、被告商品の形態は原告商品の形態と実質的に同一である。
のみならず、右シャベルのアーム部分そのもの、アームを押し上げるパイプ及び内部のスプリング、ハンドル、ハンドルと車輪の連絡軸、前輪作動構造部、警報機等の主要部分で、部品のサイズも全く同一であり、取り外して原告商品と相互に入れ換えることさえできる。
(二) 混同のおそれ
被告商品の形態は原告商品と実質的に同一で、部品にも互換性が認められるだけでなく、容器である段ボールの外箱の色彩・図柄等も極めて類似し、サイズも全く同一で、原告商品に特有の用語である「ウエイトリミット(体重限度) 三五kg」との記載もされている。また、メーカー希望小売価格も、被告商品は原告商品と同様の六九〇〇円となっている。
したがって、一般の消費者はもちろんのこと、卸売問屋や小売店において、原告商品と被告商品を誤認混同するおそれがある。
(被告の主張)
(一) 被告商品の形態と原告商品の対比
被告商品の形態には以下のような独自性があり、原告商品の形態と同一でもなければ類似もしていない。
(1) 被告商品には、後部にシャベルとくま手が付属している。
(2) 被告商品の椅子は、原告商品のそれに比べて、より低く、より広く、より長い。すなわち、原告商品の椅子は、幅一三センチ、長さは前後の突起部分を含めて一九センチ、高さは二四センチであるのに対し、被告商品では幅一四センチ、長さ二三センチ、高さは二二センチとなっている。また、座る部分についても、被告商品では原告商品のように平坦ではなく、子供が座りやすいように丸みを帯びている。
(3) 被告商品では、模擬運転席の四方のガラスの大きさが原告商品よりも大きく、運転席上部も透きガラス様になっており、運転席内部が明るくなっている。
(4) 被告商品の後部左右には、タンク様の付属品がついている。
(二) また、被告商品と原告商品とでは次のような外観上の違いもあり、一見して別商品であることが判るようになっている。
(1) 原告商品の座席の両側には、赤の下地に青色で「わんぱくシャベル」と大きく印刷されているのに対し、被告商品では、同じ部分に青の下地にピンク色で「KID’S SHAVEL」と印刷されているほか、ハンドル軸上、シャベルのアーム右側の車体上面及び本体後部両面にも「KID’S SHAVEL」と印刷されている。
(2) 被告商品では、アーム部分の両面に黄色と青のストライプ模様の中に「SUPER POWER」と印刷されている。
(3) ハンドルの色が、原告商品では青であるのに対し、被告商品では赤である。
(三) 混同のおそれ
原告商品と被告商品は、ともに幼児が砂場で利用する玩具であり、実際にこれを購入する親等は、幼児にとっての使い易さや楽しさを考慮して商品を選択するのであるから、商品の特徴もこのような機能的部分に見出されるべきである。被告商品には前記のようにシャベルとくま手が付属し、幼児が使う上での楽しさは被告商品の方が格段上であるし、座席の座り易さにおいても同様であるうえ、デザイン的にも原告商品よりも優れており、消費者は被告商品を選択するはずである。
また、前記のとおり、被告商品は原告商品とは異なる形態及び外観を備え、段ボールの外箱にも商品名に加え「スコップとくま手がセット」と表記し、原告商品とは全く異なる商品であることを強調している。
したがって、両者に混同のおそれはない。
3 争点3(被告の故意過失)について
(原告の主張)
前記のとおり、被告商品は原告商品と実質的に同一であり、メーカー希望小売価格も同じであるし、段ボールの外箱の色彩、図柄、サイズ、「ウエイトリミット(体重限度) 三五kg」との記載まで同じである。なお、被告商品の外箱には、小さく「MADE IN KOREA」と表示されているほかは、メーカー名、輸入元、トレードマーク等の表示はない。
したがって、被告には、原告商品の著名性にフリーライドしようとする意図のあることが明らかである。
(被告の主張)
(一) 原告の主張は争う。
(二) 被告商品は、株式会社チヨダが全国規模で展開しているチェーン玩具店ハローマックの担当者から、同店舗用商品として開発を依頼されて製造したものであり、価格の設定も外箱にメーカー名を表示しないこともハローマックの意向に沿ったものである。また、被告は、金型の元となる模型製作を訴外田村技工に依頼して一二七万円を支払っており、被告が原告商品を盗作するつもりであれば、わざわざ費用をかけて模型製作を依頼するはずはなく、金型も被告は独自に製作している。
被告は、他人の商品を参考にして商品を開発し販売することは自由競争の範囲内であると理解し、原告商品に対抗でき、品質的にも価値的にも上回った被告商品を提供しているのであり、被告商品やその外箱に商品名やブランド名を明記しているのであるから、原告の名に隠れて被告商品を販売しようとする動機が被告に生まれようがない。
4 争点4(損害額)について
(原告の主張)
(一) 被告の得た利益 一二〇〇万七四〇一円
前記一3(二)のとおり、被告は九三〇〇個の被告商品を販売したことにより合計二六五七万三二〇八円の売上をあげているところ、原告は、被告が主張する仕入代金二一七四万五四〇七円から、その中に含まれている金型代金七一七万九六〇〇円を差し引いた一四五六万五八〇七円を費用として認める。よって、被告は、一二〇〇万七四〇一円の利益を得たものであり、原告は同額の損害を蒙った。
(二) 弁護士費用 三〇〇万円
(三) 損害合計額 一五〇〇万七四〇一円
(被告の主張)
(一) 被告は、被告商品を製造販売するに当たり、以下の費用(合計三〇〇五万四四六三円)を支出している。
(1) 仕入(輸入)代金 合計二一七四万五四〇七円
<1> 被告は、被告商品九三〇〇個を一二回に分けて輸入したが、そのうち八六〇四個(一一回分)についての輸入代金、海上運賃及び通関費用等の総額は、二〇一一万八一五九円である。
<2> その余の一回分六九六個については、現在資料が紛失し、輸入代金等の明細が判らなくなっているが、右八六〇四個の平均値をもって推計すると、一個あたりの仕入代金は二三三八円となるから、六九六個分の仕入代金は一六二万七二四八円となる。
<3> したがって、仕入(輸入)代金の合計は、二一七四万五四〇七円となる。
(2) 開発費 合計六一八万三二〇〇円
<1> 模型代 一二七万円
被告は、スケッチを基にした被告商品のプラスチック模型の製作を田村技工に依頼し、平成六年四月二八日、右模型代として一二七万円を支払った。
<2> 金型代 四〇四万円
被告は、平成六年四月二一日、韓国の株式会社松林と金型製作契約を締結し、右模型から金型を起こしている。金型の代金は合計一八万七〇〇〇US
であり、被告の負担部分は一一万二二〇〇US
であるが、このうち七万一七九六US
については商品一個につき七・七二US
を商品代金に上乗せし、残額の四万四〇四US
につき日本円で四〇四万円に換算して、平成六年一二月二六日に被告はこれを支払っている。したがって、被告が名目上金型代として負担した金額は、四〇四万円となる。
<3> デザイン代等 八七万三二〇〇円
被告は、箱やシールのデザイン等を依頼した有限会社ブレイズに対し、箱デザイン及び製版代として七二万九二〇〇円、キッズシャベルシールデザイン及び製版代として一三万二〇〇〇円、商品営業用撮影代として一万二〇〇〇円、合計八七万三二〇〇円を支払っている。
<4> これらの開発費は、合計六一八万三二〇〇円となる。
(3) 製造管理費及び一般管理費 二一二万五八五六円
被告が被告商品を開発製造したことに伴う人件費及び一般管理費は、前記売上総額二六五七万三二〇八円の八パーセントにあたる二一二万五八五六円とみるのが相当である。
(二) よって、被告には利益は生じていない(二六五七万三二〇八円-三〇〇五万四四六三円=マイナス三四八万一二五五円)。
第三 当裁判所の判断
一 争点1(原告商品形態の周知商品表示性)について
1 商品の形態は、本来的には、商品の実質的機能の発揮、美観や生産効率の向上等を考慮して適宜選択されるもので、直接的には商品の出所を表示することを目的とするものではないが、その商品の形態が同種の商品の中にあって独自の特徴を備え、あるいは一定の商品形態が長期間又は短期間でも強力な宣伝等が加わって使用された結果、商品の形態自体が二次的にその商品の出所表示の機能を備える場合があり、このような場合には、その形態自体が商品の技術的機能に由来する必然的、不可選択的なものでない限り、不正競争防止法二条一項一号の規定の趣旨に照らし、同号にいう「他人の商品等表示」に該当するものである。
2(一) 原告商品の形態は別紙物件目録(一)記載のとおりであるが、その形態を採用するに当たっては、原告商品がシャベルカーを模した幼児用乗用玩具であることに由来する一定の制約に服するものと考えられ、例えば、<1>アームとシャベルの形状、<2>車体上面の座部の位置、<3>ハンドルの存在、<4>シャベルカーのキャビンを模した部分やアーム、ハンドルがそれぞれ車体前方に偏位して設けられること等の形状や構成は、原告商品の用途や題材からすれば、必然的、不可選択的あるいはありふれたものであると解される。
しかしながら、原告商品は実際のシャベルカーを忠実に縮小した玩具ではないから、原告商品に見られる右<1>ないし<4>以外の形状や構成は、原告が適宜選択して採用したものであると考えられる。そして、原告商品の形態が発売以降同一であること、原告商品が発売される以前にシャベルカーを模した幼児用乗用玩具が国内において販売されていた事実が認められないことも考慮すると、原告商品は、シャベルカーを模した幼児用乗用玩具において、
(1) 幼児が乗ったままでアーム先端のシャベルを前後・上下に動かし、本物のシャベルカーのように砂を掻き上げる真似ができるよう、アーム部分に交互に押したり引いたりする二つのレバーを設けたこと。
(2) ハンドルが航空機の操縦桿に似せた方形であり、方形の一辺の中点を軸に固定してあること。
(3) 操作性を上げるためにキャタピラーではなく車輪式を採用するとともに、前方部に一対二輪、後部に二対四輪を配し合計六輪としていること。
以上の三つの要素を組み合わせた点に形態上の特徴があるものと認められる。
(二) そして、証拠によれば、次の事実が認められる。
(1) 原告は、原告商品を全国の問屋を通じ全ての都道府県の小売店で販売してきており、販売先の問屋数は八二社(その店舗数は一四九)、全国約九〇〇〇店の小売店の約三分の二が原告商品を扱っている。
(2) 原告商品の製造販売数量は以下のとおりであって、被告商品が販売される前月である平成六年一〇月までの総数は四八万三六八二個に上り、原告が製造販売する約六〇点の玩具の総売上額の一割五分前後を占めており、原告社内だけにとどまらず、幼児用乗用玩具一般として見た場合でも長年にわたり安定した販売数量を維持している。
<1> 昭和六〇年(八月から一二月) 三万一一四七個
<2> 同六一年 四万九九七一個
<3> 同六二年 五万二七〇二個
<4> 同六三年 四万九〇八二個
<5> 平成元年 五万四二一三個
<6> 同二年 五万二九一六個
<7> 同三年 五万九八二四個
<8> 同四年 五万二一八八個
<9> 同五年 五万二一一七個
<10> 同六年 四万三七四九個
(なお、同年一〇月までの製造販売数量は二万九五二二個)
(3) 原告は、原告商品の発売以来、以下のような広告宣伝活動を継続している。
<1> ほとんどの卸売業者や小売業者が購読する月刊の業界誌トイジャーナルに、他の製品とともに原告商品の写真を掲載した二ページにわたる広告を毎年四回ないし五回出している。
<2> 日本全国のほとんどの玩具メーカーや輸入元が出品し、業者や一般消費者が多数訪れる毎年一回の国際見本市にその開催当初から自社の商品を出品しており、原告商品についても発売以来毎年出品している。
<3> 地方の問屋組合の主催による各地方の見本市にも、発売以来原告商品を出品し続けている。
<4> 原告商品の写真が主力商品として掲載されているカタログを毎年約三五〇〇通作成し、全国の卸問屋、小売店に配布しているほか、右国際見本市を訪れた一般消費者にも配っている。
<5> 全国の小売店は、卸問屋が作成し、原告商品の写真が掲載された新聞の折り込み広告を、年末年始、ゴールデンウィーク、夏休み等の大売り出し用にそれぞれ何千枚も各家庭に配布している。
(4) 被告は、ハローマックからの依頼により、原告商品の対抗商品として、ハローマックで販売するために被告商品を製造したものであるが、このことは、原告商品が幼児用乗用玩具の中での人気商品であることを窺わせる。
(三) 右(一)及び(二)によれば、原告商品の発売以前にはこれと同様の乗用玩具はなく、原告商品は、前記三点の要素を組み合わせたシャベルカーを模した幼児用乗用玩具として形態的特徴を有しており、この形態上の特徴に、前記(二)のとおりの販売態様、販売数量及び継続した広告宣伝活動等が相まって、遅くとも平成五年中には、全国の卸問屋、小売業者及び一般消費者において、原告商品の形態は、原告の商品であることを示す表示として周知性を獲得したものと認めるのが相当である。
3(一) 被告は、右三点の特徴はいずれもありふれた形態であると主張するが、仮に個々の形態がありふれたものであっても、これらを組み合わせて従来にない形態を採用することで新たな識別力を獲得する場合があり得るのであるから、被告の主張はその前提において採用できないし、乙四ないし同七によっても、前記三点の形態がありふれたものであると認めることはできない。
また、被告は、被告製の「怪力シャベル」も、二つのレバーを有したアームと方形のハンドルを備えている旨主張するが、別紙物件目録(一)と乙一によれば、「怪力シャベル」は、キャビンに透明の窓がないこと、車体後部に取っ手が取り付けられていること、四輪であることといった点で一見して原告商品とは異なる形態であることが判るばかりでなく、被告の主張によっても、「怪力シャベル」は原告商品の発売後五年を経た平成二年八月ころから製造販売されているものであって、それ以前の原告商品の販売数量の合計とその後の販売数量の推移や原告の広告宣伝活動等からすれば、原告商品と異なる形態の「怪力シャベル」を製造販売したからといって、原告商品の形態の有する識別力が減殺したものと認めることはできない。
(二) なお被告は、幼児用玩具は安全性や娯楽性に商品価値の重点が置かれるから、原告商品は形態によって出所表示機能を獲得できるようなものではないとも主張するが、幼児用玩具においては、形態もまた商品価値を生ずる重点の一つであることは当裁判所に顕著であって、右主張は採用できない。
二 争点2(被告商品の類似及び混同のおそれ)について
1 別紙物件目録(一)及び(二)によれば、被告商品は原告商品が有する前記三点の要素を全て備えていることが認められる。
加えて、被告商品は、全長、車幅、高さにおいてもほぼ原告商品と同一で、左側面視におけるキャビンの形状が原告商品と同様台形状で前面の傾斜の度合いもほぼ一致しており、車体両側面中央部に傾斜面が存在することやその後部に続く部位も側面視台形状となっている点においても原告商品と同様であり、被告商品の車輪、ハンドル、ハンドル軸、ハンドル車輪連動部品及び前輪回転部品の寸法をせいぜい一ないし二ミリ程度の違いしかない。
以上からすれば、被告商品の形態は原告商品の形態ときわめて類似しており、玩具取扱い業者や一般消費者が、両者の外観に基づく印象、記憶、連想等から両者を全体として類似のものとして受け取るおそれは強く、両者は、商品の出所について混同のおそれがあるものと言わざるを得ない。
2 被告は、右認定と異なる主張をするので以下付言する。
(一) 被告商品には、被告が前記第二の三の2の(被告の主張)欄(一)及び(二)で主張する形態及び外観上の相違点があるほかに、次の<1>ないし<6>の相違点もある。
<1>原告商品ではタイヤのホイール部分はタイヤ部分と一体成形され金属の止め軸が露出しているのに対し、被告商品ではプラスチック製の別部品となっている。<2>原告商品は、車体下部の上辺が車体上部の下辺を若干覆っているのに対し、被告商品ではその構造が逆になっている。<3>被告商品では、原告商品に比べシャベルとアームの角度が開き気味になっている。<4>被告商品では、前輪後部に燃料タンクを模した出っ張りが設けられている。<5>原告商品では、アーム側面にリブが設けられているのに対し、被告商品ではラベルを張るためこれが設けられていない。<6>被告商品の車体上部は、原告商品に比べて、同じく黄色とはいえやや濃い黄色であり、車体前後部には、商品とセットになった青と黄色のストライプ模様のシールを貼るようになっている。
しかしながら、以上の相違点はいずれも細部の形状や僅かな色彩等の相違に過ぎず、原告商品と被告商品とを離隔的に観察した場合には、前記1の共通点の中に埋没してしまい、右相違点を認識することは困難であるといってもよい程の微細な相違点であると解される。したがって、右相違点のあることが、原告商品と被告商品との類似性を否定することにはならない。
(二) 被告は、幼児の使い易さや楽しさは被告商品の方が格段上であり、デザイン的にも被告商品の方が原告商品よりも優れているから、消費者は被告商品を選択するはずであって両者に混同のおそれはないと主張するが、被告商品の方が原告商品よりも優れていることを認めるに足りる信用できる証拠はないのみか、同種の商品について改良商品が同一メーカーから販売されることは珍しいことではなく、形態の類似する同種商品の中で、消費者が好むように僅かの差異があったとしても、商品の出所を混同するおそれがないとは言えない。
なお、前記一の2の(二)(4)のとおり、被告商品は専らハローマックで販売される商品として製造されたものと認められるから、専門家である玩具の卸し及び小売業者が原告商品と被告商品の出所を混同するおそれは大きくないとも言えようが、前記1の両者の類似性の高さからすれば、原告商品を掲載した他の小売店の広告等を見た一般消費者が、ハローマックで販売されている被告商品を原告商品を製造している業者の商品であると混同するおそれは充分に認められる。
三 差止請求について
一、二に認定判断したところによれば、被告が、原告の商品表示として周知である原告商品の形態に類似した被告商品を輸入してこれを販売することにより、原告は営業上の利益を害されるおそれがあるものというべきであるし、実際上も平成六年九月以降、ハローマックからの注文が来なくなり営業上の利益が減少しているから、右被告の行為は不正競争行為に該当するものであり、原告は、不正競争防止法三条により、被告の右行為の差止めを請求することができる。
四 争点3(被告の故意過失)について
また、被告商品を開発する過程でスケッチの作成を依頼された有限会社ブレイズ及びプラスチック模型の作製を依頼された田村技工は、ともに被告から原告商品を参考にするよう言われていたほか、被告代表者自身も、模型を手作りする場合には新たに作るのではなく転用する場合もある旨自認しているのであるから、原告商品と被告商品の類似の程度もあわせ考えると、被告の右行為は、少なくとも過失に基づくものと認められる。
したがって、被告は、原告に生じた損害を賠償すべき責任がある。
五 争点4(損害額)について
1 被告は、平成六年一〇月から一一月にかけて韓国内で製造させた九三〇〇個の被告商品を輸入し、合計二六五七万三二〇八円の売上げを得、仕入(輸入)代金名目で合計二一七四万五四〇七円を支払った。
もっとも、右仕入れ代金の中には、後述する金型代金の一部として七一七万九六〇〇円(一ドル一〇〇円換算)が含まれており、実質的な仕入れ代金は、右金額を控除した一四五六万五八〇七円である。
2 被告は、被告商品及びその包装用外箱を製造するにあたり、次のとおりの経費を支払った。
(一) 平成六年四月二八日、スケッチを基にした被告商品の金型製作用の模型の製作を依頼した田村技工に対し、右模型代として一二七万円を支払った。
(二) 平成六年四月二一日に韓国の株式会社松林と金型製作契約を締結し、右模型から起こした金型の代金として、前記1に認定した仕入代金中に含まれる金型代金分を含め、合計一一二一万九六〇〇円を支払っている。
(三) 箱のデザイン等を依頼した有限会社ブレイズに対し、箱デザイン及び製版代として七二万九二〇〇円、キッズシャベルシールデザイン及び製版代として一三万二〇〇〇円、商品営業用撮影代として一万二〇〇〇円、合計八七万三二〇〇円を支払った。
3 被告が被告商品を輸入した平成六年一〇月から一一月は、原告が原告商品の製造販売を開始してから九年余が経過し、原告においては原告商品の製造に必要な金型の開発及び包装用外箱の写真等のデザインは完了していた。そして、原告が原告商品を発注する下請の生産能力の限度は、少なくても年間五万九八〇〇個程度(平成三年に最高出荷数を記録している)であるところ、被告商品が輸入された平成六年の年間出荷数は四万三七四九個(なお、同年一〇月までの製造販売数量は二万九五二二個)であって、なお生産能力に余力があり、また輸入された被告商品の個数に相当する九三〇〇個を原告が製造販売したとしても、人件費、製造管理費、一般管理費が、原告が実際に支出したよりも更に増額する必要はなかった。
4 そこで、原告の蒙った損害額について検討する。
(一) 不正競争防止法五条一項は、不正競争行為者が、その侵害の行為により受けた利益を被害者の損害の額と推定する旨規定する。
右のような推定規定が設けられた政策的目的は、不正競争行為の被害者が不正競争行為による損害賠償を求めようとする場合、損害の中心となることの多い得べかりし利益の喪失による損害(逸失利益)の範囲の認定及び損害額の算定については、侵害者の不正競争行為がなかったならば被害者の得られたであろう利益という、現実に生じた事実と異なる仮定の事実に基づく推論という事柄の性質上から、不正競争行為の因果関係の存在、損害額算定の基礎となる各種の数額等を証明することに困難がある場合が多いので、現実に、不正競争行為をした者がその不正競争行為により得た利益の額をもって被害者の逸失利益と推定することによって、被害者の損害証明の方法の選択肢を増やして被害者の救済を図るとともに、不正競争行為者に推定覆滅のための証明をする余地を残して、被害者に客観的に妥当な逸失利益の回復を得させることにあるものと解される。そして、右推定規定の前提には、被害者と競争関係にある不正競争行為者が不正競争行為によって現実にある販売収支実績を上げている以上、被害者も同じ販売収支実績を上げうる蓋然性があるとの推定を裏付ける社会的事実の認識があるものと認められる。
したがって、推定の前提事実である不正競争行為者が侵害の行為により受けた利益の意味も、財務会計上の利益概念にとらわれることなく、推定される事実との関係で定めるべきである。原告のように、原告商品の開発を完了し、開発のための金型の製造、包装用外箱等のデザインについての投資を経て、現実に営業的製造販売を行っている場合には、新たな開発のための投資や従業員の雇傭を要さず、そのままの状態で製造販売ができる台数の範囲内では、原告の逸失利益とは、原告商品の売上額から仕入価格等の販売のための変動経費のみを控除した販売利益と考えるべきである。そして、被告商品の販売台数は、原告において新たな投資や人件費の増加を要さず、そのままの状態で製造販売ができる個数の範囲内にあるものと認められるところ、推定される対象の逸失利益がそのようなものである本件の場合は、推定の前提事実である不正競争行為者が侵害の行為により受けた利益も、被告商品の売上額からその仕入価格等販売のための変動経費のみを控除した額と考えるのが相当であり、被告商品の開発費用、人件費、一般管理費、製造管理費等は控除の対象とはしないものと解するのが相当である。
以上によれば、右の趣旨での被告の得た利益の額は、前記1の二六五七万三二〇八円の売上額から、実質的な仕入れ代金額である一四五六万五八〇七円を控除した一二〇〇万七四〇一円であると認めるのが相当であり、原告は同額の得べかりし利益を失ったものと推定される。
(二) 原告が、本件訴訟の提起、維持のために弁護士である原告訴訟代理人らを選任したことは当裁判所に顕著であるところ、本件事案の性質、内容、審理の経過、差止請求を含む訴訟の結果及びその他諸般の事情を考慮すると、二〇〇万円をもって、被告の不正競争行為と相当因果関係のある損害(弁護士費用)として被告がこれを賠償する義務があると認められる。
(三) 以上によれば、被告は、右(一)及び(二)の合計額である一四〇〇万七四〇一円及びこれに対する不正競争行為の後である平成六年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払い義務がある。
六 よって、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 森崎英二 裁判官 池田信彦)